この書籍のなかで、ルイジ・タリシオという人物が出てくる。

1800年代前半の話である。

 

彼は、ヴァイオリンの収集につとめた人物で、その生涯は、「常軌を逸した」ものだった、と本の中で書かれている。

貧困家庭に生まれ、大工の見習奉公に出されたのだが、なぜか、どこかでヴァイオリンを弾き始め、地方を旅する。

大工の技術を活かして、家具などの修理を行うかたわら、壊れて使い物にならないヴァイオリンを集め始める。

 

ヴァイオリン収集力と真贋を見極める力があり、次々に名器を収集しては、パリで売るなどのビジネスをする。

しかも、幼少期からヴァイオリンを始めていたり、それに近い環境が身の回りにあったわけではない。

大工の世界から、なぜか、ヴァイオリンに魅せられて、その世界に入り込む。

ヴァイオリン演奏に関しても独学らしい。

 

私自身も、高校時代にたまたま実家の奥から発見された、誰にも弾かれることがなかったヴァイオリン(しかも3/4、祖父が尺八を吹くので、おそらく祖父が買ったかもらったもの)から始めた。私も周りに弾ける人が一人としていなかったので、当然、独学からはじまった。

 

弾けるようになると楽しいもので、結局、あれから25年ほど弾き続けている(ちなみに腕前では小さい頃から弾いている人には到底及ばない(笑))。



タリシオ氏という奇才には、妙な親近感をもっている。

私自身は、収集家ではないが、お店に入ると、まじまじとヴァイオリンを鑑賞する。

ヴァイオリンのウィンドショッピングは、本当にいつも楽しい。みているだけでも美しいし、実際に弾いてみても、それぞれの個性がある。持てるものなら何本も持ってみたいと思う。

タリシオ氏は、それを見抜いて修理しては、都会へ向かって、高く販売していた。もしかしたら、いまもなお、ヨーロッパのどこかの家の物置で眠っていたかもしれない名器を、買い取りし、メンテナンスしていた。

 

同時に、タリシオのような人たちがいて、その音色や音楽を伝えてくれることで、今私たちが、素晴らしい楽器とともに音楽ができるのだと実感する。

 

コロナでしばらくの間、音楽活動、外出活動などが自粛・制限されるなか、ヴァイオリンの歴史の一端を知るのに、よい機会かもしれません。オススメさせて頂きました。是非、読んでみて下さい。

 

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